こんにちは、おなかのーとです。
三百年の時を超えて愛され続けてきた、京都の老舗旅館「俵屋旅館」に宿泊しました。
俵屋旅館は、スティーブ・ジョブズやトム・クルーズなど、名だたる著名人が京都を訪れる際に、ひっそりと選んできたことで知られる特別な旅館です。
街中にありながら、一歩足を踏み入れると、そこには外界の喧騒とは無縁の、静かな時間が流れていました。
部屋数は、わずか十八室。
三百年の歴史を重ねてきた建物は国の有形文化財にも指定されており、どの部屋も間取りや設えが異なります。調度や意匠のひとつひとつに、長い年月をかけて磨かれてきた美意識と、妥協のないこだわりを感じずにはいられません。
俵屋旅館での宿泊の醍醐味は、風情ある佇まいだけではありません。
季節を映すように供される京懐石の美しさ、そして、決して出過ぎることのない、上品で温かな仲居さんのおもてなし。そのすべてが、心に静かな余韻を残します。
公式のホームページを持たず、かつては紹介がなければ泊まることすら叶わなかったであろうという俵屋旅館。
そんな特別な場所に、今こうして自分自身が足を運ぶことができたことに、少し不思議な気持ちさえ覚えました。
実は、俵屋旅館に宿泊するのは今回で二度目。
一度泊まると、また別の季節に、別の部屋で過ごしてみたくなる…そんな魅力を持つ旅館だと感じています。今回は前回とは異なる部屋に宿泊しましたが、新しい部屋との出会いは、やはり言葉にしがたいほど素晴らしい体験でした。
京都の中心に位置しながら、ここだけは時の流れがゆるやかに感じられました。
本記事では、京都・俵屋旅館に実際に宿泊して感じた、建物や客室の設え、館内の雰囲気、京懐石の内容、そしておもてなしについてご紹介します。
初めて俵屋旅館を訪れる方はもちろん、再訪を検討されている方にとっても、滞在のイメージを膨らませる参考になれば幸いです。

俵屋旅館
京都の街に溶け込む、俵屋旅館の佇まい
俵屋旅館の外観は、京都という土地の時間そのものを映し取ったような、静けさと品格をまとっています。
通りに面してまず目に入るのは、派手さを一切排した数寄屋造りの佇まい。低く構えた屋根のラインは周囲の町並みに溶け込み、木と土の質感を生かした外壁が、江戸時代から三百年続く歳月の深さを静かに物語ります。表門は決して大きく主張せず、しかし一歩近づけば、選び抜かれた木材や丁寧な造りから、名だたる旅人を迎えてきた老舗の矜持が伝わってきます。
一歩足を踏み入れた瞬間に感じる、館内の静けさ
石造りの玄関は、天井高く開かれた吹き抜けになっており、あえて屋根は設けられていません。空へと視線が抜けるその設えは、開放感と静けさを同時にもたらします。あがりかまちには、ぞうりが整然と置かれ、足元の石の風合いは、長い歳月を重ね訪れたお客様から愛されてきたと、自然に伝わってきます。
玄関を進んでほどなく現れる坪庭もまた吹き抜けで、視界いっぱい南天が豪華に配されていました。外と内の境界が曖昧になるこの空間は、建物の奥へと誘いながら、心を静かに整えてくれます。
廊下を歩けば、ところどころにさりげなく置かれた一輪挿しの花が目に留まります。決して主張しすぎないその存在が、空間にやさしいリズムと季節の気配を添え、歩を進めるたびに美しさが積み重なっていきます。
玄関から廊下に至るまで、すべてが調和し、俵屋旅館ならではの世界観が丁寧に紡がれていました。

俵屋旅館
今回宿泊した客室について
今回宿泊したのは「富士」の間。
十八畳二間に内縁が付いた、ゆったりとした二間続きの和室です。部屋からはもみじの木が植えられた趣のある日本庭園が望めます。
床の間には、江戸時代から伝わる雪景色の掛け軸が掛けられ、そっと椿が生けられていました。凛とした静けさの中に、季節の息遣いが感じられる佇まいです。
なかでも心を奪われたのが内縁でした。規則正しく、市松模様のようにぽこぽこと彫りが入った床板は、触れても、座っても、歩いても心地よく、その可愛らしさに思わず頬が緩みます。一歩踏み出すたびに、歩くこと自体が楽しくなる…そんな不思議な魅力を持った空間です。
内縁に腰を下ろし、遅咲きのもみじを眺めながら、気づけば無意識のうちに床を手で撫でていました。その感触を確かめるように、ただ静かに時を過ごす贅沢。次は別の部屋に泊まってみたい、けれどやはりこの部屋がいいかもしれない…そんなことを考えている自分に、ふと気づきます。その迷いすら、心地よく、幸せでした。

俵屋旅館
到着すると、美味しいわらび餅とお茶が間もなく運ばれて来て、適温に整えられたお風呂をご案内いただきます。お風呂は温泉ではありませんが、高野槙で作られた室内風呂。
チェックイン後は少し休んだら観光に出ようと思っていたのですが、この心地よい空間に身を置いているうちに、気づけば一歩も外に出たくなくなってしまいました。
夜、寝る前にもう一度お風呂へ向かうと、驚くことに、まだ十分な温かさが残っていました。高野槙のお風呂ならではの、やさしいぬくもり。その余韻に包まれながら、静かな夜を迎える時間もまた、俵屋旅館で過ごす贅沢のひとつだと感じました。

俵屋旅館
俵屋旅館の共有部分について
宿泊する客室以外にも、滞在中に自由に利用できる共有空間がいくつか用意されています。
そのひとつが、女将さんのご主人であられたアーネストさんが手がけたお部屋です。
ここではお茶菓子をいただきながら、ゆったりとした時間を過ごすことができます。写真家でもあったご主人が実際に使われていた机や椅子、愛読されていた本など、好きなものだけが丁寧に置かれた空間は、あまりにも居心地がよく、思わず見惚れてしまうほど。俵屋旅館の美意識と、ご主人の人柄が静かに伝わってくるようでした。

俵屋旅館
また、一階には図書室もあり、そのそばには小さな坪庭が設えられています。限られた空間の中にまで細やかなこだわりが行き届き、館内を歩くたびに、静かな感動が積み重なっていきました。

俵屋旅館
細部に宿る美意識と、俵屋旅館ならではの設え
畳には床暖房が施されており、室内は驚くほどやさしいぬくもりに包まれています。思わず裸足で歩きたくなってしまいますが、ここはよそ様のお宅。用意されていた浴衣と、足袋の模様が入ったキュートな足袋靴下を身につけることにしました。その一つひとつにまで、もてなしの心が感じられます。
鳥や駒の模様があしらわれた愛らしい浴衣は、到着するなり浴衣に着替えた主人に先を越されてしまい、私は残っていた、青と白のストライプ柄の浴衣を選びました。ところが主人は本来着るべき丈とは違うものを身につけていたようで、ほどなく仲居さんが気づき、新しい浴衣にそっと取り替えてくださいました。そんなさりげない心配りにも、老舗旅館ならではの気配りが滲みます。
室内は十分に暖かかったのですが、浴衣の上に羽織る赤いはんてんがあまりにも可愛らしく、思わず手が伸びてしまいました。シルクのようになめらかな肌触りで、軽やかに身体を包み込みます。結局、その心地よさが忘れられず、滞在中はずっと羽織って過ごしていました。
俵屋旅館の夜は、眠る時間さえも楽しみのひとつです。用意されていたスモーキーなベージュピンクのパジャマに身を包み、膝下ほどの高さがある、ふわふわとした布団に身を委ねます。二種類の枕を重ねて眠ると、まるで「えんどう豆の上に寝たお姫様」の物語の中に入り込んだような気分に。
もちろん、えんどう豆は置かれていませんですし、ふかふかのお布団に包まれながら、朝まで深い眠りに落ちていました。

俵屋旅館
心を満たす、俵屋旅館の京懐石
どうしてもこの旅館に宿泊したかった理由のひとつが、俵屋旅館の京懐石でした。
長年、多くの旅人を魅了してきたその料理は、まさに“本当に素晴らしい”のひと言に尽きます。
目を見張るほど手の込んだ一皿一皿が、選び抜かれた器に美しく盛り付けられ、ふわりと立ちのぼる香りとともに、静かに目の前へ運ばれてきます。その佇まいを眺めているだけで、これから始まる時間への期待が自然と高まります。
そして、ひとくち口に運ぶたび、やさしい旨みが広がり、心まで満たされていくのを感じました。味わうごとに重なっていく幸福感は、食事という枠を超え、滞在そのものを特別な記憶へと変えてくれます。
夕食も朝食も、仲居さんが一品ずつお部屋へ運んでくださいます。静かな空間で、料理が運ばれてくるたびに季節の気配が重なっていく…そんな贅沢な時間が、俵屋旅館の食事にはあります。
夕食は、大根で包まれた蟹肉や餅団子の先付に始まり、華やかなお刺身、鮑と葱の酢味噌和え、滋味深い鴨鍋と、普段の暮らしではなかなか出会えない料理が次々と並びました。そのどれもが丁寧で、素材の良さが際立つものばかりです。

俵屋旅館
なかでも忘れられないのが蕪蒸しでした。口に含むと、ほろほろとほどけるように広がり、澄んだ旨みのお出汁がやさしく寄り添います。一口ごとに、思わず息をつくほどの美味しさで、この夜の記憶を象徴する一品となりました。

俵屋旅館
朝食は、色鮮やかなフルーツをたっぷり添えた洋朝食を選び、オムレツとウインナーでお願いしました。もちろん和朝食も素晴らしく、今回は魚に鯛のお頭を、豆腐は湯豆腐ではなく揚げ出し豆腐に変更していただきました。

俵屋旅館
朝の静かな時間にいただくその味わいは、前夜の余韻をやさしく引き継ぎながら、一日の始まりを静かに満たしてくれます。夕食から朝食まで、俵屋旅館の食事は、心と身体の両方を丁寧に整えてくれるものでした。
俵屋旅館での、唯一無二のひとときは素晴らしかったです。

俵屋旅館
静かに寄り添う、俵屋旅館のおもてなし
予約の時、問い合わせの時、チェックアウトの時、どれもズムーズで、スマートな対応でした。
俵屋旅館で出会った仲居さんは、物腰がやわらかく、優雅で、思わず「こんな気配りのできる女性になれたら」と憧れてしまうほど素敵な方でした。所作の一つひとつが美しく、ふと耳に入る京言葉もまた、この宿の空気をいっそう上質なものにしてくれます。
いま、そしてこれから先も、AIがさまざまな場面で活躍する時代になっていくのだと思います。それでも、おもてなしに限って言えば、人の手にしかできないことが確かにある…そう感じずにはいられません。相手の表情や間合いを読み取り、その人に合わせて差し出される心配りは、個々の人柄や経験によって紡がれるものです。
俵屋旅館のおもてなしは、そっと、確実に心に残ります。その理由は、そこで働く一人ひとりの人の在り方にこそあるのだと、滞在を通して深く実感しました。

俵屋旅館
俵屋旅館は、どんな人におすすめか
俵屋旅館は、本当の日本文化を体験したいと願う方にこそおすすめしたい、ラグジュアリーな大人のための旅館です。
華美な演出や分かりやすい豪華さではなく、長い年月を重ねて磨かれてきた美意識や、丁寧なおもてなしを、静かに味わいたい方に向いています。
宿泊料金は決して気軽な価格帯ではありませんが、その分、空間・料理・時間のすべてにおいて、価格以上の価値を感じられる滞在が待っています。特別な記念日や、自分自身を労わるための旅として選ぶ方も多く、年齢を重ねた大人の旅に特によく似合います。
一方で、「格式が高そう」「敷居が高いのでは」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。けれど実際には、過度な緊張を求められることはなく、静かに心を委ねて過ごせる、あたたかさに満ちた宿です。初めての方でも、自然体で日本の美に触れることができるでしょう。
慌ただしい日常から一歩離れ、空間や時間そのものを慈しむ。そんな旅を求める方に、俵屋旅館はきっと深く心に残る場所になるはずです。

俵屋旅館
俵屋旅館に宿泊する際の注意点
俵屋旅館は、設えやお料理に至るまで、随所に細やかなこだわりが感じられる宿です。滞在中、そのひとつひとつに触れるたびに、楽しさや嬉しさが自然と積み重なっていきます。加えて、おもてなしも申し分なく、心まで満たされる時間が流れます。
そのため、実はひとつだけ注意したい点があります。
それは、観光に出ている場合ではなくなってしまうこと。
館内で過ごす時間があまりにも心地よく、気づけば「今日はもう外に出なくてもいいかもしれない」と思ってしまうほど、旅館の中が充実しています。一歩も外へ出たくなくなる——それが、俵屋旅館の魅力でもあります。
ですから、桜や紅葉を目的にしたハイシーズンの慌ただしい旅程での宿泊は、少しもったいないかもしれません。せっかく泊まるのであれば、観光の予定を詰め込みすぎず、俵屋旅館で過ごす時間そのものに、ゆっくりと集中することをおすすめします。
写真はお昼寝用寝具。

俵屋旅館
俵屋旅館 宿泊情報
俵屋旅館は、公式ホームページを持たない旅館です。そのため宿泊予約は、旅館へ直接電話で問い合わせるか、宿泊を取り扱っている旅行会社(JTBなど)を通して行います。※俵屋旅館の取り扱い代理店は私の知る限り、現在はJTBのみです。
私は前回、JTBを利用して予約しましたが、今回は直前の予定だったため、JTBではすでに満室でした。そこで旅館に直接連絡をし、運よく予約を取ることができました。
実は、前回の宿泊以降、3〜4回ほど予約を試みたものの、そのたびに満室で断念しています。それだけ、俵屋旅館は常に高い人気を誇る宿ということなのでしょう。
宿泊を希望される方は、日程が決まり次第、できるだけ早めに予約をすることをおすすめします。
俵屋旅館の連絡先
住所 〒604-8094 京都市中京区麩屋町通姉小路上ル
電話番号 075-211-5566
滞在を振り返る
最後に、俵屋旅館での滞在を振り返ります。
江戸時代から三百年以上続くこの宿には、時代が移り変わっても失われることのない、日本の美意識と、人の手によるおもてなしが静かに息づいていました。
外観や設え、客室で過ごす時間、心を満たす京懐石、そして何より、人の温度を感じるおもてなし。どれもが声高に主張することなく、ただそこに在り続け、訪れる人の心にそっと残ります。
便利さや効率が重視される現代において、俵屋旅館で過ごす時間は、立ち止まり、味わい、感じることの豊かさを思い出させてくれるものでした。
決して誰にでも向いた宿ではないかもしれません。けれど、本物を静かに味わいたいと願う方にとって、これ以上ない贅沢な場所だと思います。
この文章が、いつか俵屋旅館を訪れるきっかけ、あるいは、日本の美しさをあらためて思い出す小さなきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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